第5章 夏
ー穂波sideー
改札に研磨くんが見えたとき
嬉しくて嬉しくって早く触れたくって、
思わずハグをしたら、
研磨くんも優しくギュッとしてくれた。
きゅん。
家までの道のり、手を繋いで歩いて、
こうやって触れることができるのがたまらなく嬉しかった。
旅に行くと、日常に戻ったとき、
その当たり前さがすごく尊いんだって深く体感する。
研磨くんが毎日していた部活やゲームの話を聞くのが幸せで、
質問ばかりしてしまった。
・
・
・
今日親は、オーストラリアから来ている友達と泊まりで出かけてる。
お母さんたちにも紹介したいけど、
いきなり友人も一緒にとか、研磨くん苦手そうだからちょうどよかった。
研磨くんは部活帰りだし、夕飯食べていってもらおうと思って、
昼の間に買い出しに行った。
商店街の魚屋さんにちょうどいいサイズの鯵が売っていて、南蛮漬けにしようと決めた。
一つ決まるとあとはバランスを考えて追加していけばいいから、献立はとんとんと決まった。
南蛮漬けだけだと物足りないのかな、と思って
サラダには豆腐を、汁物は豚汁にすることにした。
日頃、サーフィンとかで身体を動かす人たちが訪ねてきてくれることも多い家で育って、
お兄ちゃんは空手もやっていたし、
お母さんはじめ、お母さんのお友達が台所や買い出しの時に、
その日の献立とかバランスとかを自然に話しながら決まっていく様子をみてきたので、
そういう感覚は自ずと身についた。
・
・
・
研磨くんがシャワーのあと着る服を考えながら探すのも楽しかった。
どんな色でもさらっと着こなせちゃいそうだけど、
自分の好みとか、研磨くんが着ていてそわそわしないようにとか、
いろいろ妄想して、無地の上下にした。
墨色のトップスはわたしのお気に入りで、
ちょうどいいサイズのB品を見つけた時、これだ!ってなった。
じゃあ、お兄ちゃんが着ていたグラミチの焦げ茶のハーフパンツにしよう、って
わー絶対かっこいい!って
頭の中で研磨くんを着せ替え人形にして楽しんでしまった。
そして実際にそれらを着た研磨くんはとてもかっこいい…
シャワーから上がって
うちで使っている石鹸の匂いがする研磨くんは
いつにも増して魅力的だった。