第19章 みかん
「なんで?別に小さな声で話すことでもないだろ〜?」
「……………」
「あれ?違った? あれ?俺間違ってる?」
「…いえ、木兎さんは間違ってませんが、
小さな声で話したいというのも間違いではありません。
どちらのパターンの人もいると思います」
「そっかぁ わるい赤葦! …で、どうなの?」
「…それについてはまだよくわかりません。
今までにない感覚を感じているのは確かで… いま検証しているところです。
そもそも好きという言葉を当てはめるのが、どういう状態を指すのかがわかりません」
「難しいなぁ〜 もっと簡単なことなんじゃねーの〜?」
「…簡単なこと …そうですね………
以前木兎さんが仰ってた一緒にいると元気が出て安心する、というのは俺にも当てはまります。
穂波ちゃんはそういう人です。 少しでも一緒に時間を過ごしたいと思いますし、
…さっきは穂波ちゃんの発した思いがけない声に身体がゾクゾクとしました」
「うん、それが好きってやつなんじゃねぇの、赤葦」
声のした方を向くと、
黒尾さんが頬杖をついて座っていた。
いつにまにか俺の前の席にトレーを持って移動していたようだ。
「その上、その最後のゾクゾクはまた好きとは違った、
いや好きとも繋がってんのかもしんねぇけど、でも別物とも言えるあれだ。
性欲だ。雄として反応したんだろ。
…つーかなんだよ、その思いがけない声って。どうやったらそんな声聞くんだよ」
黒尾さんは、小松菜の芥子和えをつつきながら平然と言ってのける。
…性欲?
「…あ、それはですね、首筋に虫刺されのような、
腫れてはいないんですが赤い痕を見つけて、つい。
昨日の夜会った時にはなかったので…」
「…つーか、研磨はどこだ?」
…なんでいきなり孤爪の話を、とも思うが、
単純にチームメイトとしてまだこの場に不在の部員を気にかけてるのだろう。