第19章 みかん
ー赤葦sideー
穂波ちゃんが去った後、
そのまま玄関に残って本を読んだ
穂波ちゃんにもらった本の2部目だ。
主人公は深い悲しみを背負っていながらもどこか飄々としている。
全てをざっくりと受け入れて真っ直ぐに自分の足で立っているような。
魅力的な女性だが、穂波ちゃんとは違ったイメージだ。
穂波ちゃんは物語の中で主人公が出会う、
もしくは昔から知っている女性としてこの物語に出てきそうな子だな、と思う。
だからどうというわけではないが…
この作品を読んでいると穂波ちゃんを側に感じる。
気づいた時には目線は文字ではなく空へと向かっていた。
「ぉあー! 赤葦〜 ここにいたぁ!」
「おはようございます、木兎さん」
「何してんの、こんなとこで」
「………ぼーっと」
「 ? 」
「…ぼーっとしていました」
「へぇー なんか新しい赤葦だな!」
木兎さんには昨日銭湯で、穂波ちゃんのことを聞かれ端的に話した。
偶然別の場所で会った人とここで再会した、という、
自分の中で起きている感情を抜いてしまえば、至極簡単な話だ。
「あぁ〜 腹減った〜 7時からだよねぇ 今何時?」
「6時40分です。 …少し早いですが廊下で待たせてもらいましょうか。
準備が整い次第開くかと思うので…」
小松菜の芥子和えを作ってくれると言っていた。
…楽しみだ。