第19章 みかん
少しだけ配膳を手伝ってわたしは調理室にいく。
昼の仕込みを今のうちに出来る限り進めておく。
「…穂波、おはよ」
研磨くんがトレーを持ってやってきた。
空のお皿が乗ったトレーじゃなくて、
今から食べるものがのったトレー。
『…おはよう、研磨くん。よく眠れた?』
「…んー、あんまし」
『…そっか、あ、あったかいお茶飲む?』
「…んー、味噌汁のむ。 あとでお茶ちょうだい」
『…ん』
「………いっつもあっちの部屋穂波いないから、こっち来た」
『…ん』
「いただきます」
『はーい』
…なんか、うちに泊まりに来てる時みたい。
もうじき、最初に食べ出した人たちがお皿を返しにくるだろうけれど…
最近泊まることがないので、それでも嬉しい。
研磨くんはわたしが主に使ってる調理台の端っこに椅子を出してちょこんと座り、
ぼーっとした様子でゆっくり食べ進んでる。
手を進めながらちらちらと様子を見てしまう。
「あーおいし」
『…ふふ』
「穂波の味、好き」
『うん、ありがとう。嬉しい』
ぼんやりしながらぽつぽつと小さな子どもみたいに喋っててかわいい。
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「ごちそうさまでした!」
「すげーうまかったっす!」
食器が下がってきた。
『は〜い、食器ありがとうございます!』
…きっとここからどんどん食器が返ってくるので、
食器を置いてもらうとこを少しでも開けるべく
洗い場として使ってる調理台の方へ向かおうとすると
くいっとエプロンの裾を引っ張られた。
「穂波、キスしたい。まだ納豆食べてない」
…まだ納豆食べてない。 って… かわいい
『…ん、納豆まみれでもなんでもいいよ。笑』
研磨くんはお水をごくっと飲んで、口元を拭いて準備万端にしてる。笑
椅子に座ってる研磨くんの高さに合わせて屈むと
研磨くんにTシャツの胸元をくいっと引っ張られて唇が重なる。