第19章 みかん
『…あ、そろそろ調理室に行かなきゃ』
穂波ちゃんは立ち上がり
ぴょんと跳ねるように俺の前にくる。
『昨日、銭湯まで見送ってもらった時も、
丸の内からあの時までの時間が美しすぎて京治くんにキスしちゃうとこだった。
あ、チークキスね。 …わたしはそういう奇行をたまにしちゃう。
だから京治くん、さっきのこと、気にしないでね。 じゃあ、またあとでねッ』
そう言い残して風のように去って行く。
…キスしちゃうとこだった………?
チークキス………?
今し方起きた、自分の行動や身体に流れたぞくぞくとした感覚。
それだけでも考えることは多くあったのに、
その倍以上の捌くべき情報を渡されたような感じだ。
…でもどうも穂波ちゃんは、
俺が自分のしたことを気にすると思って
さっきの言葉を言ってくれたようだった。
…よく、わからない。
よくわからないが、不思議と心は軽い。