第19章 みかん
ー穂波sideー
玄関でばったりクロさんに会って、
さっき調理室でかおりさんが言ってたことを思い出して、
妙に照れてしまった。
思いがけず、
尊敬している先輩に自分のやってることを認めてもらえた感じというか…
別にクロさんに認められてないとも、
誰かに認められたいとも何とも思ってなくて、
だからかな、思ってなかったからこそ、不意打ちで…
帰りはクロさんが迎えにきてくれるって。
クロさんには再三、気を付けろと言われてる。
いろんな時に。
そしてクロさんは前の彼女と他校絡みで色々あったと前に少し話してくれた。
…それもあるんだろう。ここはこれ以上あれこれ言わずに流されていよう。
…するべきことは、
なるべく早くお風呂から上がること。
調理室でも、銭湯までの道すがらも。
書店で過ごしたときのように、
京治くんとの時間は心地良い。
ついつい、話に花が咲く。
マネさん達との話に花が咲くのとも、
ツトムくんとのそれとも違って、
静かに湧いて静かに流れていく水のように
穏やかで、落ち着いていて、とても澄んでいる。
「…じゃあ、俺はここで。 また明日。 おやすみ、穂波ちゃん」
『京治くん、今日は本当にありがとう。 …おやすみなさい。 また明日!』
…別れ際頬にキスしてしまいそうな自分がいてギョッとした。
女性でも男性でも、国というより、人それぞれではあるけど、
別れ際や再会したときに頬と頬を合わせてチュッと音をさせる
チークキスをする文化がある。
される側にはなってしまったが、
口付けではないとはいえ、する側になってしまっては大事だ。
流れるような会話は心地良いけど、流されちゃダメ。
海外で会う、妙に気の合う旅人とは違うんだ。
それに、京治くんは出会いこそ旅っぽかったとはいえ、
これから会うことも増えるであろう、
そして共通の知人も多くできた友人。
旅の出会い気分はしまっておかなきゃ。
そうして、ごちゃごちゃと考えてるうちに
研磨くんのことを思い出す。
結構前だけどカレー食べたいって言ってくれてた。
喜んでくれたかなぁ…
思い出したが最後、
もう、会いたくて会いたくて仕方なくなった。
でも、もう遅い。
…また明日かぁ