第19章 みかん
『ほいっ、とれた』
にこっと笑って指先についたまつ毛をみせてくる
「…ありがとう」
走ってもいないのに鼓動がうるさい。
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『京治くんお風呂はもう、入った?』
「あぁ、俺はもう入ったよ」
『そっか』
「あ、穂波ちゃんまだだよね。 …貸切の時間もう過ぎてしまったかな」
『…ん? 女子は少ないしどうってことないよ。きっと普通に入れると思う』
「…そうだね。 明日もあるし、今日はこれで」
『うん。ありがとう。じゃあ、いこっか』
穂波ちゃんは湯呑みをさっと洗って
シンクの水を綺麗に拭きとるとそう言った。
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「銭湯まで送ってくよ。夜道、危ないから」
階段を上りながら提案する。
『えぇ、いいよぅ。すぐ近くだもん』
「…でも何かあったら俺が嫌だから、送らせてもらえないか?」
『…あ、そうだよね。うん、わかった。 …じゃあ、ちょっと準備してくる!』
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風呂セットを持った穂波ちゃんと音駒の校内を歩く。
…なんか、不思議な感じだ。
玄関をでたところで黒尾さんに遭遇した。
「おぉ、穂波ちゃんと赤葦じゃないの〜 おつかれ〜 今から風呂?」
『あ、クロさん………』
穂波ちゃんはどこか照れた様子で黒尾さんと話している。
「なるほど、見送りってわけねぇ。ふ〜ん、なるほどねぇ …帰りはどうするわけぇ?」
『え?あ、帰り? 帰りは1人で帰るよ』
「あ、いえ。俺が送って帰ります」
『へっ』
「…俺が迎えにいくから赤葦は見送ったら帰ってこい」
『なっ』
「いえ、でも…」
「うちのかわいいマネージャーなんで、うちでしっかり保護させていただきます」
黒尾さんは穂波ちゃんの頭を抱えて胸に寄せるとそう言った。
それから、
「赤葦、見送りだけ頼んだわ〜 じゃ、頃合い見て迎えいくな。上がってもいなかったらメール頂戴」
そう言うとひらひらと手を振りながら校舎に入っていった。