第18章 くしゃみ
ー赤葦sideー
穂波ちゃんとの話は盛り上がるというわけではないのだけど、
延々と尽きないような気がする。
そのトーンもテンポも心地良い。
決して単調なわけではないのに、
どうしてこうも心地良いのだろうか。
会話だけでなく
仕草も笑顔も綺麗で可愛く、
これは今まで小説の中で何度もみてきた感情に繋がるのではないかと思った。
ギャラリーへ行くから、と分かれるきっかけとなる会話になった時、
俺はまたも引き止めたというか、
着いて行くことを望んでいた。
展示中だったのは片岡球子という人の版画で、
鮮やかで斬新な色使いが印象的だった。
穂波ちゃんは隣で
わぁ、とか へぇとか おーなどと小さな声で呟いていて、
その様子はとても …愛らしかった。
一枚の絵を並んで観たり、
時にばらばらになり、、
そのうちにまた一緒になる。
その時間はなんとも形容し難く、尊いものだった
心の奥が満たされていくような…
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「赤葦には会ったり話してるだけで元気になるような、安心するような人はいる?」
いつだったか木兎さんに聞かれたことがある。
ポストカード買ってくるね、と
レジへと向かった穂波ちゃんの後ろ姿を見ながらふと思い出した。
その時はまだそんな人はおらず、
小説の中の話であってピンとは来なかった。
でも、今はもう…
「穂波ちゃん、俺たちまた、会えますか」
書店を後にし、駅の改札で尋ねる。
『…ふふ。どうかな?会えたらそれはすごいことだね。巡り合わせ』
「連絡先を…」
『今日はとっ…』