第18章 くしゃみ
ー赤葦sideー
幼いような、大人びたような
正直で素直そうでありながらも妖艶な目の前の女性の笑顔に、
その笑い方に心を奪われた。
木兎さんに出会ったときの感覚に近い。
とはいえ、同じものではない。
穏やかな調子で屈託なく笑う様も、
その落ち着いた声のトーンも、
会話の内容も、その美しい佇まいも
心に沁み渡るように俺の中に入ってくる。
なんだこれは。
会話が終わり、彼女が俺の元を去ろうとしたとき
「…あの、お茶でもしませんか?」
気が付くと引き止めていた。
洋書を重ねてもっていたことと、
垢抜けた雰囲気、
日頃から海外の人とコミュニケーションをとっていそうな真っ直ぐな視線、
フランクでありながらも丁寧な言葉遣い。
年齢に対して幼くみられるOLだろうと思っていたのだが、
16歳、俺と同学年だった。
延々に立ち話を続けてしまいそうだったので、
会計を済ませ、カフェへと場所を移す。
俺はコーヒーを、
彼女はホットサンドとオレンジジュースを頼んだ。
『お昼時、お腹空いてなくって食べなかったんだ〜。
京治くんはコーヒー飲めるんだね』
「あ、うん」
いきなり京治くんと呼ばれてることに少々驚きながらも
それ以上に自分の敬語がいとも簡単に崩れていることに驚く。
…驚きながらも、全てが至極自然なことに思えるのは
彼女の為せる技なのか
『京治くんはよくこのお店にくるの?』
「いや、たまにかな。そんな近くには住んでいないし。
穂波…ちゃんは初めてって言ってたね」
『うん、新幹線とかで、駅に降りることはあっても街を歩くことってあんまなくって』
「今日は、書店巡り?」
『ううん、わたしフラやってるんだけど、その発表会があったの』
「…フラ」
『フラダンス、わかる?』
「あぁ、うん、わかるよ。ハワイの」
『うん、ハワイの。 …コーヒー美味しい?』
小さく首を傾げながら
目を見て質問され…
内容はなんでもないことなのに、なんだこれは…
鼓動が速くなってく。
「うん、美味しい」
『いいな、サイフォン式っておもしろいよね』
「…………」