第16章 獅子
「運命は一つじゃないです」
『………』
「今はまだ付き合ったり、キスしたりはできないけど、
もしかしたらできる日が来るかもしれない」
『………』
「だから俺、まだ好きでいる」
『………』
「それでいいっすか?」
『…え、あ、はい。ありがとうございます』
一礼。 ぺこり。
あぁ、情けない。
自分で呼び出しといて、うまく喋れなかった。
リエーフくんってはっきり喋るなぁ…
言葉選びはシンプルだけど、
すごく鋭いというか。
「穂波ちゃんってモテるの?」
『へっ 知らないよそんなの』
「今日の昼休みは俺がもらっていいの?」
『…うーん、研磨くんに会いたいかな』
「会いたいって、同じクラスじゃないすか!」
『それでも会いたくなるの』
「…じゃあ会いに行ってください」
『あ、うん』
「俺、俺のせいでさっきみたいな困った顔させないようにします。
いっぱい笑わせます。俺のこともっと好きになる覚悟しといてください」
『…あ、はい。しかと承知しました』
「счастье」
『あ』
「穂波ちゃんが教えてくれたロシア語です。幸せって意味。
俺、穂波ちゃんには幸せでいてほしいです。さっきも言ったけどいっぱい笑わせます」
『…うん、ありがとう』
「…………」
『あ、遅刻同盟は結んだままでいい?』
「…なんすかそれ」
『あはは!これから毎日朝練あるから解散した方がいいね!
なんでもない、忘れて〜 じゃあ、またね。
時間くれてありがとう』
研磨くんのもとへ走って向かう
…研磨くん、制服着てる時はまるでヨーロッパの少年だけど、
真っ赤な音駒ジャージを着ると途端にヤンキーっぽく見えるのが面白くて最近のムフフ。
ほんと、どちらも、外見だけの話なんだけど…
今は制服研磨くん。
琥珀色の瞳を湛えた
わたしの大好きな若き賢者のもとへいざゆかん!