第16章 獅子
ー穂波sideー
柔らかくて暖かな唇の感触に何かが思い起こされた。
…あのとき、リエーフくんとわたし、キスした?
どんなに思い出そうとしても、
唇に触れた感触しか思い出せない。
「キスだけ? …ていうかおれとのキスでそいつを思い出したの?」
今まではそのときの状況を聞き出すための質問をしてた研磨くんが
ふいにそんなことを聞いてきた。
怒られるのは仕方ない。
でも、違う。
研磨くんとのキスでリエーフくんを思い出したんじゃない。
そりゃ思い出したのは結果的にはリエーフくんとのキスになるわけだけど…
それはただ暖かくて柔らかい感触で繋がってるだけで…
感情も残像もない。
でもこんなこといってもただの言い訳だし、
その上全然筋は通ってない。
それは違う、としかいえなかった。
…でも、
「…さっきみたいなキス?穂波も応えたの?」
それはない。
そんなのどんなにぼけっとしてるからってあるわけないじゃん。
そもそもをちゃんと覚えてないのに、言い切ったって説得力はない、けども…
『唇に唇の感触があったことしか思い出せない …からそれ以上はない。
ていうか応えるって何?舌とか入れたってこと?
わたしってそんな… いや、なんでもない』
わたしってそんな節操ないようにみえる?って言いそうになった。
わたしが怒るなんて、逆ギレってやつだ。
口をつぐむ。