第16章 獅子
始業式の時しかまだ来てないから、
自分の下駄箱を探すのに少し時間がかかる
息を切らしながらやっと見つけて靴を履き替え、
少し余裕のできた頭の中で考える。
…さっきの、細長く素早い影は何?
わたしの3歩を1歩で飛び越えるような、
そんなイメージの残像。
…豹みたいな、獅子みたいな
あれが見間違いじゃなく人間の影ならば、
1年生の下駄箱があるあたりに消えて行ったけれど…
靴を履き替えぼんやりと歩き出す
どかどかっ どたどたっ
「うわーっ 一緒に遅刻っすねーっ!」
1年生の下駄箱から現れたのは
背の高いすらっとした銀髪の………男の子?青年?少年?
身体の大きさは青年だけど
そのたたずまい、表情は少年というか…
かっぽかっぽと大きな歩幅でこちらに近づいてくる…
「これって、運命ってやつですよね!」
綺麗な色白の手で私の両手をとり、
溌剌とした声と表情で何かを言った。
…ん?何を言った?
エメラルドグリーンの綺麗な瞳に意識が完全に持っていかれて、
彼の発した言葉が全くと言っていいほど入ってこなかった。
『あ、えっと、綺麗な色の目だね。吸い込まれちゃいそう。 …それに髪の色も、すごく、綺麗』
だめだ、まだ頭がぼんやりしてる。
海外に行くといろんな目の色の人と話をするけど、
わたしはこの、緑系の目にめっぽう弱い。
吸い込まれてしまうのだ。
早起きしてサーフィン、そこから車、電車でうとうとぼんやり… からのダッシュで
なんだかアドレナリンが出てるような。
でも確実に酸欠なのもあってか… いつもより強く、吸い込まれてく
そのときふわっと柔らかくて温かなものが唇に当たった。
『………?』
「運命です!俺たち、運命の出会い!」
『…うんめい?』