第16章 獅子
ー穂波sideー
…やってしまった!
研磨くんと1日過ごした翌日の土曜のお昼、
お母さんだけが千葉から帰ってきて
わたしはレッスン後にそのまま店番に。
お店を閉めてから、
お母さんと千葉の志田下のおじいちゃんの家に行った。
ベルズビーチでのお兄ちゃんは絶好調で、なんと優勝!
おじいちゃんのおうちの周りにはサーファーがいっぱいいて、
お兄ちゃんのこともよく知ってる。
ツアーなのでこれからまだまだ各地で試合は続くのだけど、
一つ、タイトルが取れただけでもものすごいこと。
おじいちゃんの家に皆が集まってどんちゃん騒ぎだ。
わたしは、地元の顔なじみのサーファーと日曜の早朝から日が暮れるまでサーフィンをして、
今日、月曜の朝も4時前に起きて準備して海に行った。
練馬の家からどんなに朝早く起きて行っても、
日の出前の海に入ることはないから(深夜に出ればできるけど…)
おじいちゃん家に泊まる時は朝の海をたんと味わいたい。
…で、朝の海が気持ち良くて、波もいい〜感じで完全に時を忘れた。
急いでシャワーを浴びて、バナナとおむすび、ジャーサラダを鞄に放り込んで、
バタバタと千葉を出たのが7時半。
志田下から高校までは2時間かからないくらい。完全に遅刻。
お母さんはお店、お父さんはそのまま打ち合わせに向かうので
家のある駅で下ろしてもらって電車に乗り、
駅を出て高校へと走って向かっている。
進級して早々遅刻。
そして2年3組の月曜日1限目は高木先生の数学。
怒られる可能性は低いにしても、
いじられる可能性は99.99999%。
そしてそのとばっちりを研磨くんが受けかねない。
あぁ、やっと下駄箱がすぐそこにやってきた…!
早々になにかを一つやり遂げた気持ちで
正面玄関の敷居をぴょんと跨ぐ。
視界の左端に大きな影が素早く通り過ぎた…気がした。