第15章 さくら
「わ。研磨じゃん」
どこかからカズくんの声が聞こえた。
え、カズくん?
「穂波もいるし。 …デート?」
『わぁ、カズくん。カズくんだぁ』
「…ちょっと」
研磨くんの夢中な表情や
巧みに動く指先は見ていて飽きはしないものの、
さすがにこんな閉鎖的な空間に長い間ゲームも会話もせずに居て、
持て余してるとこは大いにあった。
思わずカズくんの両手を握りしめて喜んでしまう。
『あぁ、ごめんごめん』
子供扱いされたと思ったかな。
「いや、いいけど。 …片手だけ、そのままにしとく」
そう言うとカズくんの小さな手がわたしの左手をぎゅっと絡めとる
『…ん』
予想外の感じに照れてしまう。
「…研磨つよ。なにこれずっとやってんの?」
「あ。…え、カズマ?」
研磨くんは一瞬ちらりとこちらを見る
「うん、おれだけど。いいよ気にしないで続けて」
「…ん」
『………カズくんそういえばなにしてるの?』
「このあと宮下パークで撮影」
『わ。そうなんだ』
「まだ時間あるからゲーセン来た。穂波は?」
『代々木公園行ってきた』
「いいな、穂波と渋谷デートしたい」
『渋谷デート…』
「宮下行って、ゲーセン行って、なんか食う。
買い物したり、映画みたりとかすんのかな、よくわかんないけど」
『宮下パークはわたし行ってもなにもできないけど』
宮下パークは初心者向けじゃない。
難しいセクション配置で、わたしは見物に徹するしかない感じ。
「あぁ、まぁね。でもいいじゃん。
なんかもういいよ、おれうまくなるから穂波は見ててって思う最近。
パークデートはがちじゃなくていい、一緒に楽しめれば」
『カズくんは一体何を言ってるの』
「思ってること言ってるだけ。 まぁ宮下はおれ、穂波とまだ入れないけど」
『…そだね』
小4に進級したもうすぐ10歳のこの少年は、
研磨くんのようなアンニュイさと
Sっ気たっぷりのアグレッシブさに加えて
肩の力の抜けた独特の色気を醸し出してる
末恐ろしい…