第4章 矢印
タヒチアンダンスのスタジオは
高校と同じ駅にある。
スタジオの下にはカフェが併設されてて、
レッスンの時間までそこで時間を過ごす。
テラコッタ色の壁と一面だけ落ち着いたパープルで塗られた壁。
アンティークの家具が集められていて、
どこか外国の町へ来たような気持ちになる。
メニューにあるものも、
素材にこだわったものばかりで、そしてちゃあんと美味しい。
…こういう場所、研磨くんは苦手かな。
けど、アップルパイも美味しいから今度、一緒に来てみようかな。
「穂波ちゃん、いらっしゃい。
何にするか決まった?」
この人はここでアルバイトしてるツトムくん。
金曜日はだいたいいる。
ミントティーを頼んで、読みかけの小説を開く。
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切りの良いところまで読んで、本を閉じる。
もしここに今、研磨くんがいても、同じように時間を過ごすんだろうな、と思う。
だけど、一緒にいるのといないのとでは全然違って、
当たり前なんだけど、それがすごく豊かなことに思える。
「よっ、ここいい? 今日俺、あがり〜」
ツトムくんが飲み物を手にやって来た。
『あ、うん。どうぞ。 お疲れさま〜』
「週末は海?」
『うん、泊まりで。いろいろ撮影とか、あんまりゆっくりって感じじゃないみたいだけど』
「お。ラッキー。俺も飛び入りで入れるかな」
『お!何するのー?』
「いや、何ってわけでもないんだけど、現場の空気みれるだけみたいとおもって。
なんでも雑用するから参加させてもらえたらすげー嬉しい」
『早朝スタートだから、早めに分かったほうがいいよね。連絡入れとく。
今日もバイト終わりで、週末も休みとって何か予定があったの?』
「どっか1人で撮影に行こうと思って空けてたんだけど、場所決まんなくて。
穂波ちゃんに会ったら、閃いた」
『いいね、閃き!
わたしもうレッスンの時間だから、お店に連絡入れるように頼んどくね?
行けるといいね。じゃあ、またね!ごちそうさま〜』
お会計を済ませて、スタジオへ向かう。
スタートは18:30から。
少し早く入って着替えを済ませ、ストレッチをする。