第11章 暁
ー穂波sideー
冬の夜道って特別だ。
そんなこと言うと、
夏の夜道も秋の夕暮れも、春の明け方も…
何時も全部ぜーんぶなんだけど…
冬の夜道、寒くても歩きたい時がある。
寒いから、なのかもしれない。
研磨くんがうちにいる間、
一緒に夜歩いて帰ることがなかったから、
今日は一緒に歩きたいって思った。
どちらかが鍵を持ってて、っていうのも
すっごく特別で、すっごく幸せだったけど。
水曜はレッスンがないから、
すぐに家に帰って、
さつまいものマフィンと、
ごまいっぱいのクッキーを焼いた。
大事な研磨くんを長い間お借りしたし、
おでんもご馳走になったし、
その上、食費、と言って渡されるには多いお金を受け取った。
わたしたちが稼いでいるお金じゃないし、
これは食費にかかったレシート一緒にお母さんに渡して、
お母さん同士で折り合いをつけて貰えば良いんだけど…
レッスンのお給料やお店の在庫整理の手伝いでもらったお小遣いで
材料を買って、これは私から、の気持ちを贈りたいというか…
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研磨くんから電車に乗ったってメールが来たから
ダウンを羽織って駅に向かう。
一人で迎えにいく時間も、
待ってる時間も、
寒いってだけで、気分が高鳴る…
研磨くんが改札から出てきて、
手を繋いで歩いた
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家に着いて、
一緒にお風呂に入ろうって言ったんだけど、
全然違う返事が返ってきたから、
ブレザーを脱がせながらもう一度お風呂に誘った。
手をとってお風呂に向かおうと思ったら
逆に研磨くんに手を引っ張られた
「キス、する」
…キスしよ、じゃなくて
キス、する? 宣言?
…かわいい
しよ、じゃなかったし、
なんとなく目を瞑って待ってみる。
………?
キスしてくれない。
恥ずかしくなって薄めを開けてみると、
じっとこちらを見てる…
猫みたいな、鋭くて綺麗な目。
もう一度目を閉じて、
もう少しだけ、
キスをまってみよう