第10章 2012
ー穂波sideー
「穂波、おはよ。…コーヒー淹れて?」
寝癖のままのぼんやりした顔で
お兄ちゃんが台所にやってくる。
『おはよう、お兄ちゃん』
コーヒーケトルに手を伸ばしながら挨拶を返す。
水を持ってダイニングの椅子に座って
お兄ちゃんは大きなあくびをする
「…昨日は研磨に送ってもらったの?」
『うん、雪降ってた』
「だよな、今ほんのりだけど白いし。…なんだ、連れ込めば良かったのに」
『…ふふ』
「こっちいる間に連れてこいよ」
『うん、もちろん。紹介したいもん』
「穂波、今日予定は?」
『レッスンも今日まで休みだし特にない』
土日空けて月曜日の今日は祝日。
成人の日。
(※2012年のカレンダー見ながら書いてます※)
明日から学校も始まるし、
週末福岡である大会に向けて明日の朝一の便でお兄ちゃんたちは九州へ行く。
「じゃ、買い物ついでに昼メシ食べようぜ」
『うん!』
コーヒーを机に置いて
オーブンを覗きに台所に戻る
「うまそーな匂い」
『エナジーバー。今日持っていってね』
くるみ、クコの実、南瓜の種、
オートミールにカカオニブ
プルーンとレーズンを混ぜて低温で焼いたもの。
お兄ちゃんが日本にいた頃、
サーフィンや空手の大会の時によく焼いてた。
「♪ だと思った。おれの好きなやつ。
あ、ブリスボールも作って?」
『うん、いいよ。…あ、でもデーツないや。あとでお店寄ろ』
生まれてからずっと当たり前だった日々の会話が
お兄ちゃんがカリフォルニアに行ってからなくなって
それはそれで馴染んでいくものだけど
こうしてふと日常に戻ってくると
すっごく安心する日常なのに
非日常で… 前よりもっと大切な時間になって、尊い。
やっぱりなんでもない日常が
小さな幸せ、
小さなキラキラした光の粒に包まれてることが
何よりの幸せなんだと思う。
「…じゃ、10時あたりに出発予定で〜」
『…ん。はーい』