第8章 栗と飴玉
『あ、研磨くん。その昆布が浸してある鍋をさ、火にかけてもらえる?
弱火よりの中火くらいで』
穂波は台所に立っているとするすると頼みごとをしてくる。
心さんや周りの大人に、小さい頃からこうやって頼まれて覚えてきたんだろうな、と思う。
里芋の皮を剥きながら、きっと次のことを考えてるんだろうな。
いつもは1人で。今日はおれがいるから2人バージョンで。
バレーの時もそうだけど、奥行きのある思考って面白い
『あ、お湯沸いた。
研磨くんさっきのほうれん草の茎のとこ入れて?
ちょっとしたら葉っぱも入れてちょうだいな』
頼みごとが続くからか、語尾をちょこちょこ変えてて面白い。
葉っぱを入れると1分も満たないうちに、
もういいよ〜と言ってシンクに用意されたザルにあげて流水で冷やした。
言われた通りに水気を絞ってる間に
穂波はさっき使ってた鍋をさっと洗って里芋の煮物を作り出してる。
…そっか、道具のことも考えながら使ってるんだな。
先に煮物作ったらもう一つ鍋、使わなきゃだもんな…
火にかけてた鍋から昆布を取り出して、沸騰させて鰹節をいれてる。
…手際の良い人の料理を見るのって楽しいかも。
『あ、いい感じ』
切って容器に並べといたほうれん草を見て呟く。
サイズが?しぼり具合が? 何のことを言ったのかはわかんないけど。
言われた分量でだし汁とみりんと醤油を合わせた液を
ほうれん草の容器に流し込んで冷蔵庫に入れた。
…あれ?ほうれん草のお浸し、おれが全工程やったかも。
…こんなことまでとっさに考えて手伝い頼んでるのかな。
やっぱ穂波、賢いんだな。感覚的なとこも多いけど
それから細々と色んなことを頼まれて、
話しながら手を動かしてる間に全部できた。
おれが豆腐とネギを切ったり、わかめ入れたり、味噌を溶いたりして
味噌汁を作ってる間に
穂波は机の準備を淡々と進めていく
動作が騒がしくなくて、綺麗なんだよな…
明るくて華やかで子どもっぽいとこもあるのに、
所作が綺麗で落ち着いてて…
…おれ、ここにいる間に何回穂波のことやっぱ好き。って思ったんだろ…