第6章 層
『………研磨くん、大好き』
「…ん」
『………帰ろっか』
「………でも穂波」
『研磨くんに触れてるだけで満たされます。便利でしょ 笑』
「………」
『…そうじゃないときもあるよ?……いまは大丈夫。補充完了』
「…ん。……補充」
『研磨くんはできた?』
「…ん?」
『……ん、目がいつもの研磨くん。ちょっと柔らかいくらい。大丈夫そ』
目をじーっと見つめて言う。
きっとおれ、難しい顔してたんだ…
『どんな研磨くんも大好きだよ』
「…ん」
服を着て部室を出る。
職員室に鍵を返して、駅へ向かう。
さっきまで渦巻いてたよくわかんないのはどっかに行った。
「…穂波、なんかごめん」
『へ?』
「おれ、いらいらしてたよね」
『…イライラしてたの?…いろいろ考えてるのかなって思ってた。ぐるぐるするときあるよね』
「…ぐるぐる」
『わたしは大丈夫だよ?でもわたしのせいでぐるぐるしてたらごめんね』
「え、いや…違うから…大丈夫」
『…ふふ。………お腹空いたね』
「…ん」
『………家でご飯作って待ってくれてるよね。お母さん』
「…ん。たぶん」
『…帰らなきゃねっ。ここを行ったところにスタジオがあって。
その下がカフェなの。ツトムくんがバイトしてる』
「へぇ」
『ご飯も美味しいし、ケーキも美味しいよ。秋だし、きっとアップルパイも焼くんじゃないかな。また一緒に行こう?』
「…ん。」
『で、再来週の土曜日からね、午前中にそこでレッスン始めるんだ』
「…へぇ。何の?」
『現代フラの教える方』
「…え、教えるの?」
『うん!やってみようと思って。ビギナークラスで、キッズを中心に』
「…へぇ。…楽しみ?」
『うん、わくわくしてる。伝えるの遅くなっちゃった。頭の中いっぱいで』
「…ん」
『研磨くんたちが、授業の後も、週末も、夏休みも当たり前のように部活を頑張ってて、
わたしももっと何かしたい!って思ったんだよ。
休みはダンスと、サーフィンと旅行と…って感じですごしてきたけど…
…ってまぁ、なにも変わらないんだけど。あ、スケボーが最近ぐんぐんきてるか……
……じゃなくて、そう。研磨くんのおかげ。ありがとう。』
そう言って向けられる
おれの好きな、花みたいな笑顔。