第39章 scenes
『それでさ、お白湯飲みながらぼーっとして』
「うん」
『それでもやっぱありがとうだなーってなって』
「うん」
『それから、いつか来てくれるだろう赤ちゃんが、まだ2人だけでいろいろやっててー!
って言ってくれた気がした。 ちょっと、間抜けな表現しかできなくてごめんけど』
「…ん」
『んーと、それだけ。 ただ、それだけ』
「…ん」
『あ、それだけじゃない』
「…笑」
『研磨くんのことがもっともっとすきになった。
すきなんて言葉じゃ表せないくらいすきになった』
「…ん」
『…んーと……それだけ!』
「…笑」
そのまままたおれはゲーム、
穂波は手帳に何か記し終えてから裸足になって芝生の上を歩いたり。
少しすると戻ってきて、それから弁当を食べる。
桜エビの入った卵焼き、菜の花辛子和え、高野豆腐と椎茸の煮物、
唐揚げ、にんじんマリネ、スナップエンドウとマヨネーズ。
おにぎり(梅干し、昆布、牛肉の佃煮)、いちご。
「これってあの、言ってたやつ? 治くんの」
『うん! 美味しいよね! おむすびに本当に合うよね!』
「うん、うまい」
『ねー♡』
…もーいいや。
正直、喪失感はすこしなんてものじゃなかった。
結構ぽっかりきた。
でもなんだろ、とりあえずおれは穂波がいればそれでいいや。
妊娠とか赤ちゃんとか… そういうのは一緒にいればそのうちきっと。
それにやっぱ、独り占めもまだ、してたいし。
治くんが作った牛肉の佃煮の入ったおにぎりを
おいしいおいしいと食べる姿に、笑顔に、なんていうか…
全部あるし、増えていっても減っていっても結局全部あるじゃんみたいな。
穂波がいれば、全部ある。
…あー、すごいふわふわしてるけど。
「治くんが送ってくれたのはまだ残ってるの?」
『…餃子と明石焼き、まだ残ってる。今日、食べてく?』
「…ん、そうしようかな。なんか穂波といたいかも。 いつもだけど」
穂波は別に空元気を出してるわけじゃないだろうけど。
一緒にいたいな、って思う。