第39章 scenes
ー穂波sideー
あの後研磨くんは少し調べごとをして
それから「今はこのくらいにしとく。下行こっか」と言ってから
やさしく、それは優しくわたしを抱きしめた。
そして抱きしめながら
「どんなことがあってもおれ、どうにかするから、
だからどんなことでも話してね。 まだ頼りなくてごめん」
と言った。
流石に泣くかと思った。
別に不安はないし、不安を無理に隠したりもしてない。
だからその言葉に安心して泣きそうになったってわけじゃなくて
本当ただ、あまりに誠実な研磨くんの心に。
その想いの深さに。 幸せで、涙が溢れてきそうだった。
頼りないことなんてひとつもない。
『研磨くん、ありがとう。それから、ごめんなさい』
「…ん。もう謝らないで。おれも、謝るのはやめる。
シャワー、浴びるよね。 おれはこの際拭ければいいけど…」
『…実を言うと気を緩めるとつーって垂れ落ちてきそうになる。立ち上がったらきっとこれは…』
「…?」
『…研磨くんの、その、それが……』
「…あっ そっか そうだよね んと ご…」
『何でこんなに幸せなんだろ。 何でこんなに何一つ怖くないんだろ』
「………」
『…とか言って。そんなのわかってるんだけどね』
「…?」
『研磨くんがいるから。隣にいてくれるのが研磨くんだから。大丈夫』
「………」
『ただ…』
「………」
『うちの親は色んな前例を知ってるのもあってちゃんと話せば、きっとするーっとしてるけど
研磨くんのご両親にもそれを求めるのは違うし。 その辺だけは、少し気合いがいるなと覚悟してる』
うちの親の感覚がマイノリティなのはわかってる。
この場合でも寛大だと思ってはいないけど
でも、お父さんともお母さんともそんな話をしたことはある。
さっき2人で話したことを真摯に伝えれば、受け止めてくれるだろう。
でも研磨くんのご両親にとっては、そうはいかない事だから。
今までの関係とか一旦置いておいて、真っ直ぐに向き合わないと。
いろんな思いを浮かぶままに感じながら
お父さんたちの部屋でトイレを借りて色々して、下に下りて。
そして今、カズくんを呼びにまた2階へと上がる。
京治くんと一緒に。