第38章 シロワニ
ー研磨sideー
穂波の誕生日がクロたちの登校日って。
午前中だけで午後はもう帰るみたいだけど。
せっかくだからって声かけたら
ここまでの規模になった。
福永がケーキを持ってきて、
それに合わせて焼きマシュマロたちが
定番のあの歌の伴奏を弾き始める
誰からともなく歌い始める
Happy birthday to you
Happy birthday dear 穂波
穂波は目をうるうるさせて、
でも綺麗な顔で笑ってる。
唇を少し噛んでるのは、涙を堪えてるからだろう。
それでも綺麗な笑顔。
穂波が蝋燭の火を吹き消す
わぁぁ〜って謎の歓声。
穂波がおれの手をぎゅって握る。
福永がケーキを切ってくれて、
マネージャーたちが配ってくれる。
穂波は、ありがとう しか言ってない。
多分、それしか言えないんだと思う。
涙を流さないようにするには。
みんなそれわかってて、勝手に喋ってる。
どうしてこうなったか、とか
穂波へのいつものお礼とかは一切言わずに。
勝手に喋ってる。
「ケーキうまいな!これあそこのカフェのなんだろ?」
「うまいっすねー!ナッツとドライフルーツたっぷり」
「でもさ、あれうまかったよな!俺の誕生日に作ってくれた……」
そしてある時ふっとその暗黙の了解みたいなのをぶち破ってくるのは、
夜久くんとリエーフ。
小さな口でちょっとずつ食べてた穂波の手が止まる。
「いや俺の誕生日の時のあのふわふわで中にクリーム入ったやつもすっげーうまかったっすよ!」
「まぁあれだな、いつもうまいよな。ケーキだけじゃなくって合宿の時のさ……」
からん、と小さく音をさせてデザートフォークが手から落ちる。
ぼろ ぼろ ぼろ と大粒の涙が穂波の目からこぼれ落ちてくる。
触ったらもっと泣くかな。
でも触らずにはいられないな。
頭をそっと撫でると、
顔をくしゃーっとさせて
『んんーーーー』
って鼻から音をだしながら、もっと泣いた。