第38章 シロワニ
ー穂波sideー
「あ、それから。 穂波、誕生日おめでとう。また、学校で」
そう言って、唇にチュっとキスを落としてから
研磨くんは朝練に向かうため駅へと歩いて行った。
もう寝る前にベッドの中で、その言葉はもらっていたし、
なんだか拍子抜けというか、ぽかーんとしたまま研磨くんの背中を見送った。
…ひゅーっと冷たい風が吹いて我に帰る。
…よし。お弁当の用意。
昨日作ったお惣菜もあるし…
青椒肉絲をさくっと炒めて、卵を焼いて。
ちゃちゃっと作って詰めて、冷ましながら支度する。
部屋に通学バッグとレッスンバッグを取りに行くと、
机の上に小さな箱が置いてある。
…?
綺麗に包装されてる。
深い緑の包装紙に金色の細いリボン。
ミモザのドライフラワー。
…朔さんところだ、きっと。
やだどうしよう。
研磨くんのばかぁ………
・
・
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しばしぐすぐすと一人で泣いて
少し落ち着いてからリボンを解く
包装紙を綺麗に剥がして、小箱を開けると
小粒の極シンプルなピアス。
ネックレスと同じ色。
ピアスも嬉しい。
もちろん嬉しい。
でもそれ以上に研磨くんがどんな顔して
どんなことを想いながらこれを選んでくれたんだろうって、
そこに想いを馳せてしまう。
そしてそんなことを考えてしまうものだから、
涙がボロボロと溢れてきて仕方がない。
この場に研磨くんがいたら、
きっとどうにか抑えれた涙も、
今一人で部屋にいるとひとつも抑えれない。
しばらく箱を胸に抱いて一人でズビズビと泣いた。
それから、鏡に映る自分のぐしゃぐしゃな顔に自分で笑いながら、
両耳にピアスをつける。
綺麗。
小さく控えめに、でもちゃんとそこにいる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
はっと時計を見るとぎりぎり遅刻か、ギリギリセーフかって時間で
慌ててお弁当を包んで、もろもろの支度を済ませ家を飛び出る。