第38章 シロワニ
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品川区民公園の池の周りを歩いて、それから梅山まできた。
まだ満開では無いけど、結構咲いてる。
梅の花ってかわいいな。って思った。
桜はあぁ桜だな。色が綺麗だな。まとまってると綺麗だな。
あと、散ってく様子が綺麗、みたいな。
梅は、ころんとしててかわいい。
蕾も、花も。
ハルくんのお尻を思い出した。
『梅の花と、この季節がすき』
「…ん」
『梅の実の季節もすき』
「…ん 笑」
『…』
「穂波にすきじゃない季節なんてあるの?」
『…ない、かな』
「…ん、知ってる」
『…』
穂波の髪に飾りたいなって思ったけど
枝ごと落ちてるのはなかなかなかった
そりゃそうか。
『ねぇ研磨くん、あのね』
「…ん?」
『染物の話なんだけど』
「うん」
『梅で布や糸を染める時、どの部分を使うと思う?』
「え」
クイズ形式は初めてかも…
「んー… わかんないや」
『…笑 今考えなかったでしょ 笑』
「うん、だって穂波が話してるの聞きたいから」
『…』
「それで、どこで染めるの? 枝?」
『そう、枝で染めるの。
それでね、一番綺麗に色が出るのは、花が咲く前』
「へぇ…」
『志村ふくみさんっていう染織家の方の本を読んで知っただけの知識なんだけど。
それを読んだとき 夢心地になった』
「…」
『そっかぁ、梅の花の色を、梅の木はその身体全部を使って作ってるのかぁって。
梅の花に色付けるために枝にも色を宿してるのかぁって』
「…」
『それは紛れもなく、梅の木の力だけど、同時にちょっと何だろうな…
妖精とか精霊とかの存在を想ってしまうというか…
自然ってさ、野生ってさ、なによりも現実的で、それでいてなによりもファンタジーだよね』
「…ん」
『ちょうど本読み終えたし、もう一回読もうっと。
おばあちゃんは、志村ふくみさんが染めて織った帯や反物をいくつか持ってるんだ。
ほんとうに綺麗だよ。 本当に、綺麗』
うっとりと綺麗な表情でそういう穂波は
いま穂波が喋ったそのままの存在だと思った。
しっかりと現実を見て、ここにいて、
今この瞬間を味わっていながらファンタジーに限りなく近く
風が花を散らすようにふっと消えいってしまうような。