第37章 powder
ー赤葦sideー
毎年この日はいくつかチョコレートをもらう。
食べきれなそうな分を冷蔵庫に入れておくと、
母親がちょこちょこと食べて、次第になくなっていく。
なかなか全てを自分で食べることができないのは申し訳ないけど、
捨てることになるよりずっといいと思っている。
今年もそんな調子で手にチョコレートの入った紙袋を下げ、
部活を終え家に帰ってきたのだけど。
「あ、京治おかえり。 小包来てたよ。
小箱での冷蔵便だったから、そのまま冷蔵庫入れちゃった」
母にそう言われる。
「…ねぇ、本当に彼女じゃないの?」
付け加えるように一言。
色恋の気配など一切なかった俺に、
同じ名前の女の子からちょこちょこと手紙が届くようになったことを、
母親は不審がってはいないが…
気になってるというか、楽しんでいるというか。
最近こうして、一言探りをいれてくることが増えた。
「残念ながら、彼女じゃないよ。前も言った通り」
「ふーん。そうなんだねー」
手を洗いうがいをし、
冷蔵庫を開け小包を取り出す。
母親が夕飯を温め直してくれている間に、
中身を確認し、手紙を読みたいと思った。
チョコレートケーキが3種類、
どれも小ぶりで3つあっても苦にならない大きさ。
まぁそもそも、穂波ちゃんからのケーキならどんなものでも嬉しいけれど。
それから、猫の浮世絵のポストカード。
【京治くん、こんにちは。
ふと思い立って、バレンタイン号をお届けすることになりました。
小ぶりでなので、食べきれるかな、と勝手に予想して。
まだまだ寒い日が続きますがどうぞご自愛を。 穂波】
もうすぐ、穂波ちゃんの誕生日だ。
誕生日プレゼントをわざわざ送るのは、気を遣わせるだろうか。
穂波ちゃんは俺の誕生日の2週間後くらいに渡してくれたし…
誕生日は葉書だけにして、
ホワイトデーにまとめて返す…とかにしてみようか。