第37章 powder
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帰りは兄ちゃんが送ってくれた。
穂波さんのおばあさん家にまず寄って、
それから僕の家に。 ありがたい。
遠回りになるからいい、と穂波さんは断ったけど、
僕からしたら少しでも長くいれるのは嬉しいし、
兄ちゃんからしたら、お祖母さんに顔を見せとくべきだ、的な。
穂波さんの両親とは電話で話したけど、
基本ゆるい感じがした。
でも、一歩踏み越えるとすごい、迫力がありそうというか。
お祖母さんは品があって、良家の方って感じがしたけど、
でもこの人やその両親たちと深く関わりがあるわけで。
それから聞けば条善寺の主将が孫だと言う。穂波さんの従兄弟ってこと。
懐の広いというか、
許容範囲の広い、
自分は自分、他人は他人、と言った感じの印象を受けた。
だから、彼氏でもない僕と2人での外泊にもなにも言わなかったんだろう。
これはこれで、脅迫。
穏やかで静かな目の奥にある鋭い光みたいなもの。
怒らせたら、この人も相当怖そうだな、と思った。
ちょっとやそっとでは怒らないだろうけれど、その時は、怖そうだ。
『…じゃあ、蛍くん。 またね。 すっごく楽しかった。 ありがとう』
「うん、僕も。 また、いきましょう」
『うん、きっと!』
「穂波さん、僕…」
『…?』
「もっと好きになってしまった」
『…? あ、スノボ?』
…だから、いちいち、鈍感。
「まぁ、スノボもだし、穂波さんのことも」
『あっ………』
「伝えたいことはそれだけです。 じゃあ、また。 LINEする」
『…ん。じゃあね、最後、ハグ』
「はい、どうぞ」
腕を軽く広げると、ぽすんと飛び込んでくる。
こんなに愛しい人にこれから先 出会うことがあるのだろうか。
ほんとに、心から、そう思う。
ゲレンデでパウダースノーをまきあげながら滑る様を見て思った。
この人は、まるで魔法の粉をばら撒いてる精霊かなにかのようだと。
容姿の美しさや醸し出す色気だけではない、
人を魅了する何かを持ってる。
その心の美しさに、邪念のなさに、屈託のなさに。
僕は何度でもはっと息を飲み、何度でも恋に落ちる。