第37章 powder
ー月島sideー
宿に帰って汗で濡れたインナーも着替えて、
いまはレストランにいる。
もうラストオーダーは終わっていて人がいない。
けど、僕たちのほかに3人いる。
大学生か?社会人か?わからないけどナイターにいた人たちだろう。
──ほんとに見事だった。 穂波さんのスノボ。
調子が出てきたらもう、なんてことなく高レベルなワザ決めてたし。
僕の少し前で派手に転んでたのもかわいかった。
ピボットをしようとしたんだと思う、
重心の掛け方に失敗したのかエッジが刺さってどてーんと尻餅をついた。
穂波さんのそばに行って止まると、
穂波さんはケラケラ笑ってた。
『はぁー気持ちいいー』
「コケるのが?」
『コケるのも♡』
「…タフだね」
差し出した手を取り置き上がり、
『…次はいける。あー楽しい。
雪はいつも違う。 ほんと、自然って楽しいよね』
「………」
そう言った。
フェイスマスクとゴーグルで表情こそ見えないが、
今絶対に はっ と息を飲むような綺麗な顔をしてる、それだけはわかった。
穂波さんの板は硬いと言ってた。
硬い板でって多分、難しいと思うんだけど…
だからこその反発を利用してるんだろう、感覚を研ぎ澄ませて。
そして今滑ってる雪の硬さ、柔らかさ…
そういうものも感じ取って、感覚を掴んで、そして次はいけると言った。
前から見ようか、後ろから見ようか。
…前から見たい。
そう思って先に行って途中で待ってると、ほんとに次で決めた。
多分アンディ720だったと思う。2回転してたから。
華のあるトリック。綺麗な着地。
技が決まった後も変わらず気持ちよさそうに滑り続けていく姿。
…この人に、さらに深くハマる感じがした。
風呂上がりの浴衣姿でも、寝起きのはだけた浴衣姿でもなく。
…いやまだどっちも見てないだけだけど。
肌なんてどこも出てないに等しいウェア姿で、
華麗に舞うように飛んで回転するその様、
そしてスピードを落とさずに滑り続ける野性味に心を奪われた。
…ほんと、つくづく厄介な人だなとおもう。