第6章 層
練習を見に行ってみると、だーれもいなかった。
静か…
走り込みとかするのかなぁ…
ギャラリーで新しく読み始めた文庫を読みながら様子をみる。
しばらくすると遠くの方から近付いてくる声が聞こえてきて、
体育館に入って来たみたいだったから、上からひょこっと覗いてみる。
バレー部のみんなだ…
研磨くんは、いないみたい。
自分のペースで走ってるのかな。
「お!穂波ちゃん!」
『クロさーん、お疲れさまですっ』
クロ「研磨はもうちょっとかかるわ。 お前ら10分休憩〜!」
みんな汗を拭いたり、顔を洗いに行ったり、
水分補給したり、寝転がったり…
思い思いに過ごしてるのを上から眺める。
…人間観察が好きだから、これだけでも面白いかも。
「穂波ちゃーん!下降りてこないの〜?」
夜久さんが声をかけてくれる。
『夜久さーん!上で見てるー!』
「体験マネやってみたらー?」
『へっ!…んー今日はやめとくー!笑』
「っおい!なんでだよ!笑」
『途中で帰っちゃうし、またちゃんとできるときにやっていいならしてみたい!』
「へーい!今日はダンスー?」
『ううん、カズくんとスケボー!』
「………おー!なるほどー!」
(…カズくんぐいぐい来てるんじゃん)
マネージャーの体験なんて軽々しくしていいものなのかな。
中途半端な介入になっちゃいそうで、ちょっと躊躇しちゃう。
研磨くんが帰ってこないうちに練習が始まって、
上からぼんやりと眺める。
練習みてけば?なんて、初めて研磨くんに言われたなァ…
早く試合、見てみたいな…
クロ「研磨ぁ!水分補給してすぐ入れー」
研磨「…え。きゅうけい………」
研磨くんが帰ってきた。
…ふふ、少し動作をゆっくりにして、きっとちょっとでも休めるようにしてる。
上手に上手にやってるんだな。
それから練習に入っていく。
練習中もやっぱり肩の力が抜けていて、
ほんと、いつも通り。
好きだなぁって思う。
入学した頃より、ずっとずっと研磨くんのことを知っても尚、
目で追っちゃうのは研磨くんで、
わたしは研磨くんの虜だ。