第37章 powder
レストランに入る前に板を立てかけに。
「JONES?」
『うん、JONES!』
「硬そうだね」
『うん、硬い! パウダーとか、フリーランに向いてるやつ』
「…グラトリはできないか」
『…それに照準合わせてはないだろうけど普通に普通なやつならできるよ。どうして?』
「いや、なんとなく。 みたいなって思っただけ」
『………』
「あ、でもわざわざやらなくていいよ。気持ちよく滑ってくれればそれでいい」
『…ふふ、ありがと。 うん、わたしね、わざわざできないの。笑 だから大丈夫』
「………」
人に見てもらいたくてやる人じゃない。
大方、気持ちよく滑ってたらグラトリも決めてたりするってとこだろ。
レストランでは2人とも味噌ラーメンを頼んだ。
『今からやりたい放題ナイターで滑って、
帰ったらお夜食があるなんて至極の贅沢だね』
「…やりたい放題って。 夜食後も僕は全然、ヤれますけど」
『にゃっ…』
「…笑 夜食のあと、温泉もありますし。
夜中も降る予定だし、気温相当低そうだし…
朝イチのパウダーにはだいぶ期待できますね」
『ねー! ほんと。 いやでもナイター、心してかかろう。こりゃ寒いぞ』
ラーメンをすすり、つゆを飲み。
腹が膨れ身体が温まると眠くなってくる。
しばし椅子の背もたれに背中をあずけ、
なんともだらだらした時間を過ごす。
「あれ、あれ!? 鷺坂周平の彼女さんっすよね? ほら!絶対そうだ!」
「おまっ 馬鹿! 他の男といるときにそんな声掛けあるかよっ」
穂波さんに向かって大学生くらいの男たちが群がってくる。
鷺坂周平って、冬季五輪代表候補の?
今年X-gameで4位だった?
なんの人違いだよ… 彼女って…
『あはは! いえいえ、彼女ではありません』
「え、でも俺、前声かけたんす。周平さんに長野で遭遇した時」
『あぁ …ん?』
「一緒に来てる人彼女さんっすかー?って聞いたら、そーそー!っつってました」
『あー……… 周平はね、そういうとこあるから。ごめんなさい』
「おまっ ほんと馬鹿! 彼氏の前で何言わせてんだよっ」
…彼氏って僕のことか。
まぁ側から見たらそうだよな