第36章 たぬき
ー穂波sideー
今日研磨くんとお兄ちゃんは2人でお出かけしてる。
…ずるい!
けど、嬉しくもある。
夜は朔さんのところへ行くっていってたな。
もうエッセーを書くのは切り上げて、
そろそろお風呂入ろうって思ったら
朔さんの奥さん、萌さんからLINEが入った。
【通話するけどもしもしとか言わないでね】
…既読がついたのを確認したのか、
すぐさまテレビ電話の着信画面になる。
緑のボタンを押すと…
きゃーーーーーーー
あぐらをかいた研磨くんの脚の間?に陽くん!
そして研磨くんの手には絵本!
「…しーん …もこ」
いつもと変わらない声の調子で読み終えたとこだった。
…そっか萌さんだから、陽くんを撮ってるって思って研磨くんも普通にしてるのかな。
…お兄ちゃん、撮ってるよね?撮っててね。
いつもプロ仕様の小型カメラは車に入れてるはず…
とにかく今は画面に映る研磨くんに集中。
陽くんが次の本を取ってまた研磨くんの脚にとんって座る。
ううう… 鼻血出そう…
「…じゃあじゃあびりびり」
抑揚のない声。 でも冷たくない、暖かい声。
赤ちゃん向けの本で
研磨くんに被せるように陽くんが声を出す
「わんわんわん! びいびいびい! たーんたーんたーん!」
研磨くんはいぬ、とか かみ、とか ふみきり,とだけ言って
擬音語は陽くんに任せてるようだった
…たまらないです
後ろから抱えるように腕を回して
猫背で陽くんに寄り添うようにして絵本を読む研磨くん。
すっかり安心した顔をして、楽しそうにしてる陽くん。
おおきなかぶ、かばんうりのガラゴ、だるまさんが、
14匹のピクニック、かいじゅうたちのいるところ
だるまさんがでぐああー!っとあがった陽くんのテンションが
14匹のですーっと引いていく。
それからかいじゅうたちのでうとうとし始めて
読み終わる頃には、研磨くんの腕の中で寝た。
頭がかくんと落ちたのを、研磨くんはそっと自分の右腕により掛からせるようにする。
研磨くんも大きなあくびを一つ。
「朔くん、ハルのお布団そこまで持ってこれるかな?」
萌さんの声がする。