第36章 たぬき
・
・
・
「あ、研磨くん。起きた? 身体冷えてない?」
玄関から入るか、アトリエから入るかうろうろしてたら
朔さんに声をかけられた。
「…ん。起きたら寒いって思ったけど、別に身体は冷えてない」
「よかった。とりあえず中どうぞ、あったかいものでも飲もう」
「うん、ありがと。あとでアトリエも見ていい?」
「もちろん」
穂波にちょうどいいものあるかな。
来月誕生日だし。
ピアスとか。 小さい粒のやつ。
輪っかとか揺れるやつとかもかわいいだろうけど、
なんかとりあえずずっと着けれるようなの渡したい。
「おじゃましま…」
「や! め! やぁ!」
朔さんの家に入るや否や、
朔さんの息子に全否定される。
萌さん…だっけ、お母さんの脚に隠れながら心底嫌そうな顔をして、 や! って。
こういうの、全然慣れてない。
犬岡とか芝山とか、扱うの上手そうだよな…
「…あ、えっと」
「あはは!研磨嫌われてるー笑」
「ごめんねー、研磨くん。最近人見知りが始まって…」
「でも誰にでもってわけじゃねーんだって。 なぁ、ハルー? おいでー」
アキくんが手を広げると、その子はたたたと歩いて行って膝に乗る。
おれはアキくんの向かいに座って、
お茶をとお菓子をいただくわけだけど…
「めーーー!! とーと! とーと!」
とにかくおれの為すことがイヤらしい。
こんな経験、初めて…
「とーとも前に使ってたねー。
でも今日は研磨くんに使ってもらいたいなーってほら、コップさんが言ってるよー」
…このカップのことか。
お父さんのだからだめって言ってるのか。
最初こそ全部否定されたけど、
それにも飽きたのか、やってられないと思ったのか、
おれと朔さんが話してる間にハルくんはアキくんと何か他のことをし始めてた。
絵本読んでもらったり、おもちゃであそんだり。
ちょっと、安心。