第36章 たぬき
ー穂波sideー
「研磨が烏野との試合中にたーのしーっつったの聞いた?」
『え、ううん。聞いてない』
「なんだ黒尾まだ言ってねーのか。話したら泣きそうだからとは言ってたけど」
『………』
もっと聞かせて
「研磨がチビちゃんのプッシュに反応はできたけど繋がらなくて、コートにへなって崩れただろ。
…そのちょっと後にチビちゃんがでかい声出したじゃん? なんか雄叫びみたいな。
まるで試合に勝ったかのような感じで」
『あ、うん』
ヨッシャァ…みたいな。
でも点が入ったことに対してのそれとは
間も力強さも違う感じがしてちょっと、不思議だった。
わけもわからないままぼろぼろと泣いたことを覚えてる
「あんときな。あの時言ってた」
『…そっか』
研磨くんに楽しいとか悔しいとか言わせてみたいって言ってたな。
そっか、それだったんだ。 そのヨッシャァなんだ
「じゃーあれも聞いてねーだろ。
研磨はわざわざ言わねーだろうし、黒尾が言えてるとは思えない」
『あれ?』
「おれにバレーボール教えてくれてありがとう っつったんだよな、試合の後コートで」
『………』
やだそれ泣く…
「あーそっかこっちも泣いちゃう感じか 笑 ごめんごめん」
夜久さんが頭をぽんぽんしてくれる
そしてハンカチとティッシュを渡してくれる
「春高後にかっこよくなった?とかいうからなんとなく伝えてみたけど、
そもそも俺が聞きたかったのは研磨の魅力についてじゃなくてだな」
『…ズビビ』
「…笑 普通に、今までほぼ毎日顔合わせてて、
4年間も離れるって想像つくのかなーとか」
『…想像か 想像はつかないようなつくような』
「物理的な距離が心の距離に反映してきたりとか、なくはなさそうじゃん。
そういうの不安にならねーの?」
『…そういうのは,全く不安にならない。
そんな理由で自分のやりたいことをやらないことの方が不安』
「…おー」
『もし結構して、あ、まずいかもってことがあったならその時対処するしかない。
どうにもならなくても、それはそれで経験。 って頭では思ってるけど』
「…けど?」
『実際に起きたら、ビービー泣くだろうな』
「なんだそれ素直かよ。かわいいかよ」