第36章 たぬき
ー研磨sideー
古道具屋にあった、
昔の広告?みたいなのの絵を見てたんだけど
穂波が店の人に話す声が聞こえてそっちに向かった。
店の人の話を聞き終えると、
穂波がおれの方を振り向く。
手にはたぬき。
『研磨くん、みてこれ』
「…ん。たぬきだ」
『他の動物も全部すごく、魅力的だけど、今日はもう絶対』
そこで止めたけど、言わんとしてることはわかる。
確かにこのたぬきはいい。
リアルで でもリアルすぎず おしゃれな感じもある。
不思議な丸みがあって でも丸すぎないんだけど、あったかい感じ。
それはたぬきだけにとどまらず、
同じ作家なんだろうなと思う他の動物たちにも言えることで。
でも今日はきっと穂波にとって、
たぬきじゃなきゃ意味がないんだろうな、と思う。
『お待たせ、研磨くん。ありがとう』
穂波は会計を済ませると、
静かに目を輝かせながらそう言った。
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ニューヨークに住んでいたことがあるオーナーが開いたというその店には
飾り気のない、ベイクドケーキって感じのケーキがいっぱいあった。
どっしり、色味が少ない感じ。
アップルパイだけで3種類。
ちょっと迷ったけど、
一番オーソドックスな感じがするのにした。
穂波はバタースコッチケーキっていう、
見た目もすっごいシンプルなやつ。
思いの外すんなりと決めたので、
それについて触れると、
『あしたの朝ごはんはここで買って帰ることにした。いい?』
って真剣な顔で言うから、思わず吹き出してしまった。
穂波の作ったの食べたいけどいいよ、と答えると、
店の人と客がざわざわしたのがわかった。
ルイボスティーを2つ。
よくわかんないから穂波の同じのにした。
何回か穂波が家で淹れてくれたやつ。
一口交換したりしながら、ゆっくり食べた。
美味しかった。