第36章 たぬき
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「…たぬき」
『…ん?」
「さっきの店の人も、たぬきっぽかった」
『あぁ…確かに』
おでん屋のおじさんとはまたちょっと違うけれど、うん。
たぬきっぽかったかも。
『同じたぬきだったりして』
「…ふ おれは、たぬきっぽいって言っただけであって、
ほんとにたぬきだとは思ってないよ」
『………』
「でも、あったかい部屋でゆっくりできたのとか、現実的にもありがたい」
そう、万華鏡のお店に1時間半も居座ってしまった。
紅茶をいただいたことも理由にあるけど…
「アップルパイ、食べて帰れそうじゃない?」
『うん、そうだね。食べて帰ろう』
ケーキ屋さんに向かってる途中、
古道具のお店を見つけてふらぁと入り込んでしまった。
研磨くんも、つまらなそうにはしてなくて、
店内をじっくりと見てまわってた。
古道具って何でこんなにも唆られるんだろう。
踏み台、スツール、脱衣かご、琺瑯のトレー。
ちゃぶ台に、手鏡。化粧台。
古い味のあるショーケースの中に、木彫りの動物たちが飾られていて、その中に狸がいた。
ファンシーなものではなく、だからって渋いものでもなく、わりと実物に近い感じ。
丸みがあって、とてもかわいらしくそして美しい。 木肌もすべすべしてて気持ち良さそう。
お値段はちょうど、おでん屋でおじさんが払ってくれたわたしたちが食べた分くらい。
お店の人に声をかけて鍵を開けてもらい、実物を手にする。
これは別に昔のものではなく、今も活動している作家さんの作品とのことだった。
「例えばクマとかゾウとかナマケモノとか。
そういうのは割とあるけれど、タヌキってあまりないですよね。
この方はもともと動物行動学を深く学んでいた方で、だからか地域密着型と言いますか…
地域別にシリーズ化してるわけではないんですが、
そのときハマっている、興味のある地域の動物を作品にされてます。いつも」
たしかにタヌキは珍しいし、
それに他に並んでるのもキツネ、カモシカ、イタチ、イノシシ、雷鳥。
日本の野山にいる生き物ばかりだった。そしてどれも美しい。