第36章 たぬき
ー研磨sideー
食べ終わって、会計に立つ。
まだ高校生だし、かっこつける意味も必要もないから
お返しとか誕生日の時とかを除いて割り勘だ。
…ってそれもほとんどアイス屋で他にそんな外食した事ないけど。
「あぁ、隣に座ってたおじちゃんが払ってくれたよ、あの賑やかな」
おれらが食べ終わるちょっと前にあのおじさんは
「じゃあな、坊主!次会ったら一杯付き合えよ。
嬢ちゃん、会えてよかったわ。綺麗なもん見せてもらった」
って、よくわかんないこと言って先に出てった。
そもそも坊主なんて呼ばれ方されたのも初めてでいちいちよくわかんない。
でも酔って出鱈目言ってるわけじゃないってことだけは、なんとなくわかった。
「あの人ね、ああ見えてもこの辺りでは名の知れた人なのよ。
気に入られたなんて、すごいわね。 ふふ」
この辺りでって、麻布十番で?それとも港区で?
まぁたしかに、身につけてるもの一つ一つの質がいい感じはしたけど。
「今更遠慮したってどうしようもないから、
ラッキーくらいに思ってここは帰りなさいな。 また来てね」
まだこんな経験したことないから、
ぽかーんって2人でなってたら店の人にそう言われてはっとした。
ごちそうさま、と告げて店を出る。
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『なんだか不思議なような何でもないような…』
「うん、わかる」
ご馳走になったことは、ありがたい。
単純にお小遣いも余るわけだし。
何でもない感じがするのはあの人の人柄。
遠慮させないというか、当然というか。
いろんなことが小さいことに思えるような人。
不思議なのはやっぱ、
あんなに豪快な感じがするのに
手相を見たり、穂波はもっと他のこともされてるみたいだったこと。
そしてそれが、出鱈目には思えなかったこと。
あと、手相見るときに触れられたとこが、
体温とは別の感じでじわーとあったかくなった。
『…たぬき』
「…ふ」
『きつねじゃなくてたぬきっぽかったよね』
それは、風貌のことなのかなんなのか。
何をさして言ってるのかはわからないけど、
狐と比較する辺り、化かされた感じがしてるんだろうな