第36章 たぬき
ー研磨sideー
「おーそれはこいつらに!」
隣の席の人がそういうと、
店の人が濃ゆい茶色のおでんをおれらのテーブルに置いた。
…味噌おでん。
「まぁ、食え!そっちもうまいから!」
おじさんのテーブルには普通のおでんしか乗ってないのに。
穂波がお礼を言って大根を半分に切り、おれは卵を半分にする。
「…あ、うまい。 初めて食べた」
『うん、おいしい。おじさん、おいしい!ありがとう!』
…でも味が濃い。これこそご飯が欲しくなるな
でも茶碗一杯は流石に無理だし
「なぁ、そこの坊主」
…え、おれのこと?
「…? なに?」
「手、見してみな」
箸を置いて、右手を差し出す。
それからおじさんはじーと見てから、反対の手も出せと言った。
「お前何考えてんだ?」
「え」
「嬢ちゃん、こいつは大物になるぞ」
「は?」
「金稼ぐわ。しかも大器晩成っていうタイプじゃねーな。
気だるい空気出しやがって、隅におけねーやつだな」
「…なに」
「気に入った!」
「え」
「嬢ちゃん、手放すには惜しい男だぞこいつは。
…って、手放す気はねーってか。 でもなんだ?この近々離れるっていう気配は」
「え」
なにそれ、やめてよ。こわ。
「嬢ちゃんもこっち来て、手、見してみな。
金髪坊主はちゃんと食べ進めとけよ、満席だからな」
…自分の方が長くここ座ってるくせに。
まぁ、お酒いっぱい頼んでお金落とすからいいのか?
「はっはっは!なるほどね、ただ距離が離れるだけってか。
坊主、もし失敗してもこの子は離れてくんねーわ。
おまえこそ、この子を手放すなよ。
まぁ、大きな失敗するってことはねーみたいだし。
…そもそも2人とも離れる気は1ミリもないようだけどな」
曖昧だけど、わかる。
言い当てられてる感覚。
ただ距離が離れるだけ、っていいな。
いや、その距離がさみしいなとかも思うんだけど。