第36章 たぬき
ー研磨sideー
練馬で乗り換えて麻布十番まで来た。
電車の中ではおれはゲーム。
穂波は小説を持ってるけど、
椅子には座ってないからか、窓の外を見てるみたいだった。
ハイウエストの色落ちデニムに首周りの空いたアイボリーのニット。
ノースフェイスの黒いダウン、ムートンブーツ。
髪の毛は無造作だけど、ぐしゃぐしゃではないなんとも言えないいい具合のお団子。
『研磨くん、あのですね』
「…?」
手を繋いで地下鉄出口に向かってると
穂波が変な口調で話し始める
『麻布十番には美味しい美味しいアップルパイのお店があるの』
「…へぇ」
『おでんもしっかり食べて、ちょっと歩いてそれから行けたらいいね。
食べれなくても持ち帰り、しよ!』
「…ん、いいね」
…ちょっと歩く、か。
なんか飲食店ばっかな印象だけど、ちょうどいいとこあるのかな。
空は曇ってて、それなりに寒い。
まぁ、いいや。
・
・
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「あら、かわいらしいお客さん。お2人でいいの?」
練り物屋の2階にあるおでん屋に入ると人がいっぱいいた。人気の店らしい。
…しかもそっか、冬だし、今日こんな天気だし。
みんなおでん食べにくるのか。
「あ、うん。2人」
「もうすぐ空くからちょっと待っててね」
少しすると老夫婦が店を出て、その人たちがいた席に案内された。
両隣は、みんな日本酒とかビールを飲んでる人たち。
そっか、おでんは酒の肴か。
『………』
「…笑」
穂波は真剣に悩んでる。
定食にするか、単品にするか。
悩んだ挙句、5点盛りと魚のすじを頼むって。
それから自家製漬物盛り合わせとおでん大根のからあげ。
おれも別にご飯いらないから、じゃあ10種の盛り合わせにする?って言ったら、
ぱぁぁぁって顔の周りに花が飛ぶような顔してた。
だから10種盛りと漬物と大根のからあげ。
「2人は高校生?」
『あ、はい』
「ただでさえ高校生のカップルなんて珍しいのに、
注文するものもなんだか… 酒呑みになりそうな2人ねぇ』
『………』
「…笑」
たしかに。
おじさんぽいのはそこに繋がるのか。