第36章 たぬき
「あ、クロ。いたんだ」
研磨くんの目線の先をわたしもみると、
クロさんが手すりのとこに縋ってた
「いや向こうにいたんだけどさ、
お前ら見えたから近づいたんだけど気づかねーし…
そしたらなんだよ何か話し出すし…
このまま声かけずに?
いやでも研磨と結局鉢合わせるしその方が変な感じするし…ってわけだけども」
『クロさん!』
「数日前に密室でたっぷりと愛の時間を過ごしたのに、
いまそんな嬉しそうな顔で名前を呼ばれても…」
『会いたかった!』
「いや、だから調子狂うからやめて…」
クロさんは顔を手のひらで覆って伏せる。
「…研磨は研磨で相変わらずケロッとしてるしよ」
そう、研磨くんは別に今の聞かれてても何ともないって感じで。
そっか、やっぱこれが研磨くんなんだなって。
引っ込み思案だとか人見知りだとか、
形容される言葉があるけど…
なんだろな、事実は事実として淡々と言ってのける。
誰が聞いてても。っていうか。
それは、今まで研磨くんと時間を共にしてきて都度感じてたこと。
周りに聞こえないようにでも、
聞こえるようにでもなく、
本当に淡々と言ってのける。
すき、とか。そういうこと。
そりゃ、家にいる時。ベッドの上…の方が多いけど…
「…いやなんで穂波ちゃんはそんな顔を紅潮させてんのかね」
「………」
「俺との何かを想像した?」
『あ、ううん違くって。研磨くんの…』
「………」
『あああ なんでもございません』
「…笑」
「なんだよ、結局研磨に持ってかれたわ。
お、穂波ちゃんもう着くよ。
じゃあ、また学校でなー」
自分の降りる駅に着いたので
2人にまたねをして、電車を降りる。