第36章 たぬき
ー穂波sideー
犬岡くんのストレッチ。
初めて補助させてもらう。
犬岡くんもずっと運動を続けてるから硬くはないけれど、
力の入ってしまってるとことか。呼吸のタイミング。
それから微妙な角度。くせ、みたいなもの。
近くですること、触れることで分かることがある。
『うん、そんな感じ。はい、吸ってー 吐きながら伸ばしてく。 うん』
みんなが交代でしてる間も、ゆっくりと身体を伸ばして、
でもみんなより少し早く切り上げてモップを取りに倉庫に向かう。
「穂波さん、ほんとに気持ちよかったです」
『お。よかった』
「なんだろな、声ですかね。 誘導されるのが心地良かったです。
吸って吐いてとか、そんなことまで」
『おーそれは嬉しい。ありがとう。自信につながるよ』
「………」
『犬岡くんは素直だから、すぐに吸収するね。
でも芯が強いし、ほんと、かっこいい男の子だなって思います』
「やったーーー!!」
やったーって。
うん、そういうとこ。
ほんと、素直さってすごい強みだ。
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「なんかいい匂いする」
「うん!いい匂いするー!」
掃除した小部屋をみんなで覗いてがやがや言ってる。
きっとのそのいい匂いの正体はユーカリのオイル。
床を拭く時に水に混ぜたやつ。
掃除に使うと空気がスッキリする感じがしてすき。
「…穂波、ありがと。帰ろっか」
鍵を閉めて、駅へと向かう。
…わたし、ほんと、学校楽しんでるな。
研磨くんのおかげだな。
研磨くんに出会ってなかったらきっと、
部活動も、体育祭も、文化祭も、するっとことなく、
学校外での交友関係を優先してたと思う。
なんならきっと、高3くらいでもうお兄ちゃんとこ行っちゃおうかな、とか考えてたと思う。
土曜のレッスンを始めるきっかけになったのも、
研磨くん初め、音駒バレー部による刺激からだった。
教えるの、すごく楽しいからレッスン増やそうかと考えた時もあったけど、
あと一年半で一旦アメリカへ行くことになるし、
このまま週一、土曜の一コマだけを心を込めてすることにした。