第35章 fun
ー研磨sideー
狢坂のセッター、
ちょいちょい、やらしい。
なんだろ、木兎サンを崩すために
まず赤葦のこと崩そうとしてるんだ。
雰囲気は、天真爛漫でリエーフとか翔陽っぽいのに。
…穂波結構すきな感じかな。
いや違うな、穂波がどうとかじゃないな。
なんだろ、会わせたくない。
根拠は…特にないけど。
木兎サンは絶好調。
それに引っ張られるのかな、
会場の空気も、コートの中も、すごくいい感じに見える。
赤葦がホールディングして18-22。
やっぱ赤葦今日ヘンだ。
「…あるよなぁ。 やることなすこと上手く行かない時って」
後ろの席から虎が言う。
「やっぱ今日赤葦ヘン」
「まぁ緊張することもあんだろ」
「キン…チョウ…?」
「あの“九州の桐生”相手だし」
「虎“キリュウ”好きだよね。 剃り込めば」
「バカヤロウ。 頭部がゴチャゴチャし過ぎんだろうが」
「さっき 烏野との試合のとき…」
話すトーンが少し変わったから、
後ろの虎を見上げる
「一瞬この会場の 音も天井も全部消えて 練習試合やってるみたいな感覚になった。
“負けたら終わり”だとか 烏野のマッチポイントだとか
そういう恐怖心も焦りも全部消えて 1点とることだけ考えてた。
“練習は本番のように 本番は練習のように”って言うだろ。
それをどんだけの奴ができんのかって事だよ。俺はラッキーだった。
“良い試合”なんてそういつもできない」
…たしかに烏野との試合は、みんながいわゆる
ゾーンに入ったみたいな状態だった気がする。
あの空気に触れてるだけで気持ちよかった。
…赤葦はベンチに一回下がる。
頭、抱えてる。
でも赤葦だし、また冷静になるだろ。
それに今日ほんと木兎サン、調子よさそう。