第34章 knit
ー穂波sideー
「…もしもし」
北さんの電話番号、ちゃんと携帯に入れておこう。
そして、一度お礼も兼ねて電話しておこう。
って思って電話したんだけど、電話の向こうの声の主が信介さんだった。
『…ん? あれ?』
…あ、まだ一緒にいるのかな。
知らない番号からだし、出てくれた的な?
『あ、えっと、今日お会いしました…』
「あぁ、穂波ちゃんなん?」
『あ、うん。信介さん、だよね?』
「うん、せやで。…ちょっと待ってな、今静かなとこいくわ」
話してるとこれは北さんの番号ではなく、信介さんの番号らしく。
北さんによる茶目っけたっぷりのいたずらによるものだった。
「…なんやろな、ばあちゃん。ごめんな、驚かせてしもて」
『ううん、全然。 北さんって、お茶目な方だね』
「せやな、そういうとこもあるかもな。 今日のセーターかて、茶目っ気あったやろ」
『うん、とっても素敵だった』
「…あ、せや。双子は大丈夫か?」
『ん?侑くんと治くん? どうしたの?』
「なんや穂波ちゃんのことになると黙っとれんような感じやったから」
『…あはは、うん、わたしは大丈夫だよ。ありがとう』
「そんなら、またな。 あ、きな粉飴うまかったで。 大事に食べるわ」
『ほんと?良かったぁ。 …じゃあまたね、ゆっくり休んでね』
「おやすみ、穂波ちゃん」
まさか信介さんと喋るなんて思ってもみなかったけど…
全然どきどきとかしなくって、やっぱり安心した。
明日帰るけど、試合いくつか観てからって言ってたな。
わたしは東京に住んでて、
研磨くんたちも東京に住んでて、
だからって重さが変わるわけじゃないけどでも、
やっぱりなんだろうな…
応援の人も、選手も、負けたらそっか、帰るんだ。
トンネルとか、橋とかいっぱい超えて。
そう思うとなんだか胸がぎゅうとする。
しみじみ、すごい場所だな。
全国大会って。