第34章 knit
「ばあちゃん、待たせてごめんな」
北さんのところに信介さんがみえた。
わたしの方を一度見て、ペコリとお辞儀をされる。
あぁ…佇まいの清らかさがそっくりだ。
「ええんよぉ、穂波ちゃんとお話しさせてもろてたんよ」
「穂波ちゃん…」
『あ、運天穂波といいます。
えっと、北さんに一目惚れしてしまって… お話ししたいなぁってお誘いしたんです』
「…北さん あぁ、ばあちゃんのことか。
俺、北信介いいます。ばあちゃんとおってくれてありがとうございます」
はっ
信介さんは信介さんだと決め込んでたけど、
そっか信介さんは北さんでもあるのか!
とか思いながら、
信介さんとお話ししてる北さんの横に座ってると
ここに永遠にいられそうな気がしてくる。
この2人の持つ空気は、この空気の流れるこの空間は、
もう、サンクチュアリと呼べる。 あああ… 幸せ…
「穂波ちゃん、ばあちゃんのことありがとうな」
『へっ』
2人の癒し空間にふにゃふにゃになっていたら
いつの間にか信介さんが隣に座っていてわたしに話しかける。
『いえもう、ほんと… お礼を言いたいのはわたしの方で…
本当に好きです、わたし北さんのこと。
お話してて… ううん、お話ししなくたって、もう、すごいなんていうか…
心がすーっとします。 それで背筋がしゃんとして、それからすごく安心する』
「…そか。 そらえかった」
『北さんはどちらに?』
「ばあちゃんはトイレ行ったで、あと物販ちょっと見てくる言うてた」
『えっ、じゃあわたしも一緒に』
「…応援団の人らに声かけられて一緒に行ったで、大丈夫やで。ありがとうな」
『…そっか』
いや、信介さんの隣にいたらわたしずっと居座ってしまう。
『…それならわたしもそろそろ、ちらっと物販みてから……』
北さんに挨拶して帰ろうって思ったんだけど、
「ばあちゃんに待っといてもらうよう言われたんやけど、あかんかった?」
北さんに手首をそっと掴まれて椅子から立ち上がるのを止められてしまった。
ううう…このサンクチュアリは危険です。
抜け出せなくなる