第34章 knit
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信介さんが入ってから、
なんだろな、決まるはずの1本が決まらない感じというか。
そんな風に見える。
侑くんは夕くんを狙ってサーブしてるみたいだし、
10番の人あれ、体幹すごいっていうかエグいってくらい強いし。
10番の人… サーフィンもスノボもスケボーも上手だろうなぁ、とか、
そんなことを考えてしまう。
兎にも角にも皆さんすごくって、
わたしがここに来てからあっという間に第二セットが終わってしまった。
16-25。
残り1セット。
…ううう
あまり勝ち負け!みたいな世界に興味がなかったけど…
こればかりは… 烏野に勝ってもらいたいとか…
思っちゃうな、やっぱり。
だって、ゴミ捨て場の決戦。実現できたらいいな、って思うもんな。
稲荷崎の応援席にいながらなんてことを、だけど…
でもこうなんだろう、
だからって稲荷崎の得点に落胆する感じは全くない。
わーすごい!って素直に思うし、うん。
試合が始まってしまうと、
とにかくはらはら、どきどきしながら見てるという感じ。
…3セット目が始まる。
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…やだもう すごすぎた
「穂波ちゃん、お顔がぐしゃぐしゃやね」
何がなんて言い出したらキリがない。
3セット目の全てが、凄すぎて…
号泣してしまっている。
何に泣いてるんだろう
烏野が勝ったこと?
稲荷崎が負けたこと?
ううん、そういうんじゃなくって
心が震えて、涙が勝手に出てきてる。
北さんがぽんぽんと頭を撫でてくれる。
…あぁ、安心する。
応援席の前に並んだ稲荷崎の選手たちに拍手を送って、
北さんが信介さんの顔を見たいから待ってる間お話しない?と言ってくれたので、
ロビーのところで北さんと座っておしゃべり。
畑のこと、田んぼのこと、編み物のこと、繕い物のこと…
保存食のこと、お漬物のこと… いろーんな話を聞かせてもらった。
「あ、忘れんうちに渡しとくね。また、関西の方に来ることあったら電話してな」
小さなメモ用紙を渡してくれる。
北 090-××××-××××
それだけのメモ。 嬉しい!
『うん、ありがとう。電話するね』
そういうと北さんはふふ、と笑った。