第33章 求肥
ー研磨sideー
『もしもし、研磨くん!』
…ん。いつもの声。
会場大きいし人多いし、また絡まれてないかなっていうか…
何してるかなって思っただけなんだけど…
おれらが試合に勝ったからか、
穂波の声は少し踊ってるような感じ。
「…ん。 今どこにいるの」
『今…今どこなんだろう?』
「………」
『サブアリーナ行こうかなって思って。でも研磨くんに会いたいな』
「…あぁ」
梟谷か。
「…ん。行っておいで。おれもちょっとしたら行く」
『…? …ん、わかった』
サブアリーナだけでも大概人多いけど、まぁきっと見つかるだろ。
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いたいた。
かわいい。
「穂波」
隣の席が空いてたから座りながら声をかけると
ふわって笑顔がこっちに向く。それからいい匂いがする。
匂いは本当に髪とかからしてきてるのかもしれないし、
もうおれの脳みそとかが勝手に匂いを作っちゃてるのかもしれないとか思う。
そのくらい、いつもいい匂いする。
『研磨くんっ お疲れさま。 おめでとう』
「…ん」
とりあえず観戦する。
木兎さんは今日はまだ不調が起きてないのか、
それとももう立て直したのか…
「…なんか梟谷のエース、調子出てきたな!やっぱすげーな!」
後ろからそんな声がした。
今日はなんの不調だっただろ…
プレーとは関係ないとこでも起きるらしいから…
…あ、サブアリーナがいやだとかそういう感じかな。
赤葦はどうやって立て直したんだろう。
梟谷のストレート勝ち。
穂波と一緒に会場を出る。
明日早起きしてくるから一緒に帰らせてって思うし…
「穂波、もう帰る?」
『うん、帰ろうかな』
「…ん」
また誰かに見つかって絡まれそうだし、
それがいいかも。
『あ、研磨くんこれ』
「…?」
ショルダーポーチから小さな包みを取り出す。
『非常食。明日も会うから、とりあえず明日までの分』
「…わ。 ありがとう」
…やった。
そっとおでこだけにキスを落として、穂波とわかれた。