第33章 求肥
ー穂波sideー
自分の強みってなんだろう、とか考えてて。
大学にアプライするにあたって書く、エッセーのことで。
肩の力が抜けてること。いつもリラックスしてること。…とか?
でもそれを掘り下げていくと、わたしは逆に気張ってしまう状態を知らなくって、
だからなかなか、例えばテストや発表会、試合前に緊張してる人の
ほんとのところがあまり理解できない。
自分なりにその緊張を解くお手伝いはできる、できてるとは思うのだけど
なんだろな、わかるよ、わたしもね…って言えないな、
そりゃもうただの経験値の不足と性質の違いだから嘆いても仕方ないんだけど…とか。
例えばわたしと研磨くんの間に本当に赤ちゃんがやってきてくれて
その子がこう、張り詰めることの多い子だったら。
わたしと研磨くんももちろん寄り添える限り寄り添うけど、
きっと山本くんみたいな熱さを持った人や
幸郎くんのように、それを経た末に抜きどころを知った人からの一言、
いやむしろその存在、佇まいだけで
わたしのそれの何倍もの威力を持った救いというか
先に見える光になったりするんじゃないかなって。
「…雪山。スキー? 山は登山?」
『雪山、スノボ♡ 山はトレッキング』
「おーいいね。どこの雪山行くの?」
『国内ではニセコが多かったけど、ここ数年は東北とか長野新潟あたりが多い』
「お。俺ね、長野なんだ」
『わぁ!そうなんだ、長野は美しいとこだよねぇ』
「山、山、山」
『…なんて贅沢』
「…そっか、そうだよね。うん、贅沢かも」
『うん、この上なく』
「…っていつまでもこうして喋ってたいけど、
どうも穂波ちゃんの電話がまた鳴り始めたし、
俺もこの後試合でね。ちょっと人探しもしないとなわけで。またね」
すっと差し出された手をぎゅっと握り返す。
『うん。ありがとう。
話せて嬉しかったよ。
じゃあ、試合頑張ってね』
「ありがとう。
また会ったら声かける」
『うん!じゃあね〜』
一度取り損ねてた電話がまた鳴り始めたのを、今度こそ。
着信元は、研磨くん。