第33章 求肥
ー穂波sideー
「…もーどこ行っとってん。探したんやで」
階段を登って、目的のエリアあたりのドアへ向かってると
後ろからぽんって肩を叩かれる
…この声は。
…このイントネーションは。
…そしてこの、人違いですよ感は。
振り返ると金髪ツーブロック、にっこり笑顔。
『侑くん!』
思わずハグ。
ぼすん。
「…なんや、いきなり!」
『あ、ごめん、再会を祝して』
「前もっとドライやったやん、手も繋いでくれんし、連絡先も教えてくれんし」
『初対面でするそれと、この、意図してない再会を果たしたこれは違うよぅ』
「…何してんの」
『試合を観に』
「あれ、別れ際に言うてたの、これのことなん?」
『うん!ユース合宿に来てたのかなと思って、それならもしかしてがあるのかなって』
「なんなんそれ、先に言ってや」
『…ふふ 旅風情』
「旅風情? よぉわからん。 てゆーかもぉ離して…」
『あ、ごめんね』
身体を離して見上げると、侑くん顔赤くなってる。
人馴れしてそうなのに、あれ、意外とシャイ?
かわいい… と同時に悪いことしちゃったナ…
そういえばハグしても、ハグ返してこなかった。
『ごめんね、侑くんには勝手にどこか似てるとこがあると思ってしまって』
「…なんの話」
『赤羽駅でにこぉってしてくれたのが嬉しかったの。だから…』
「…はぁ!? なんでいきなり照れるん!? 余計はずかしなるわ…」
侑くん、全然目合わせてくれないし
耳まで真っ赤だし、わたしまで恥ずかしくなってきた
深呼吸。
『んーと、そういうわけで距離感を見誤りました。ごめんなさい』
「…だはっ 笑 えらいテキトーにまとめたな!」
『…あ、うん』
「あ、うん。 って、全部テキトーになっとるやんけ」
『…笑 もーほら、普通に話せなくなってくる』
「俺のせいにすなや テキトーにしたんはそっちやろ」
『だーかーらー ね? そもそも適当ではないの。 はい、一旦この話おしまいね?』
とんとんとんとん ってのせられるように話が進む。
小気味良いとはこのことだなぁ、とか思いながら
このままじゃ、学校の名前とか聞きそびれる、絶対。
そう思っていったん無理くり流れを断ち切る。