第32章 あわ
ー穂波sideー
「…ん。かわいい」
わたしの顔に墨で落書きをして研磨くんがそう呟いた。
研磨くんはお父さんを除いてみんなに勝って、
結局逆三角形の鼻しか描かれてない。
研磨くんに勝って、猫ヒゲかきたかったのになぁ〜
「よーし!じゃあ2回戦やろー!」
「…えー……」
「心さん一番負けてるのに、一番やる気じゃないすか!」
研磨くんがえー…って言った。ようやっと!
・
・
・
2回戦も研磨くんとお父さんは負けなしで。
その2人が最後に対戦して、お父さんが勝った。
それからお父さんは研磨くんの頬に3本ずつ髭を描いた。
きゃーーー
かわいい かわいい 研磨くん猫〜〜〜♡
「なんすかこの差」
「黒尾くんは、1回目に心に当たって負けちゃったからな…」
クロさんは最初にお母さんに描かれた第三の目がやっぱり幅を利かせてて、
それに加えて研磨くんが鼻の下にくるんてした髭と
そのあと顎に逆三角の髭を描いたものだから、
お父さんとわたしがまるとかバツとか普通なのを描いても、演出してしまうだけで…
なかなかパンチのある仕上がりになってる。
2回戦でクロさんはお母さんのおでこに目をお返しした。
遠慮がなくっておもしろい。
そしてお母さんは何が何だかわからないカオスになってるのに対して、
クロさんのはなんでかまとまってしまっているのがまた可笑しい。
セルフタイマーで写真撮ることになって、
5人で写真を撮った。
それからお父さんは何枚か写真をいろんな風に撮ってくれた。
研磨くんとのツーショットとか、クロさんと3人で、とか。
お母さんとのツーショットとか。
それから研磨くんとクロさんは顔を洗わずに帰っていった。
…正確にいうと、お母さんが顔を洗わせずに帰っていった。
どうにか顔を拭いたりとかしようと思ったけど、
「親御さんにお正月早々2人をお借りしちゃったから、
この、楽しんできたよって一目でわかる顔を見せてあげよう」
っていう、今思うとめちゃくちゃなこじつけを、
その時は何故か、あ、そうだねって思ってしまって、
そのまま家の前で見送ってしまった。