第32章 あわ
ー黒尾sideー
「…くッ 笑」
時折噴き出しながら、研磨はおれの隣を歩き続ける。
「目立つからやだ」
とか言って置いていかれそうなとこだけど
可愛く仕上がってるとはいえ、
研磨も顔に落書きされているわけだから
一人で歩くわけにはいかないと言ったところだろ。
…今や定番の遊びではなくなったとはいえ、
正月に顔に墨で落書きされていても
ここ日本では、まぁ、まだな。
想像がつくことというか… 変人扱いはされねーし。
俺も俺で開き直って、
俯くこともなく普通に歩いてるわけだけども。
「…ねぇ、婚約ってなに?」
「はい!? …あー、さっきの続きか。
婚約は結婚を約束することじゃねーの?」
「…だよね 決められた期間とかあるの?」
「知らねーわ! ググれ!」
「…いや、それも考えたんだけど、止められなくなりそうだからやめた」
「………なにを」
「…例えば、長くて○年って書かれてたとして、
おれにはそれが短すぎたら、なんだろ、長い期間でもいいんですよって例とか意見を探し続けたり」
…すげー、ガチじゃん
「あと、普通にどういうものかわかってしまったら、口走ってしまいそうで怖い。
まだ何も土台できてないのに」
「土台?」
「仕事とか」
「あー」
ふわふわした状態で結婚しようって言うのもな、っつーことかね。
まぁ確かに。 研磨にはありえないし、避けたいことだわな。
「…じゃあどのみちまだ知らねー方がいいじゃん。期間も」
「…うん、まぁそうなんだけど」
「けど…」
「いやまぁそうなんだよね。
普通に考えてそうなんだけど、っていうか忘れてたのにクロが思い出させたんだし」
「おいこら!」
俺のせいにしやがった。
けどその猫顔で口尖らせても可愛いだけだわ、クソ…
突っ込む気力いつもの割回しで失せる…
「まぁいいや… 眠い。 おれもう寝る」
「寝すぎて夜寝れなかったとか言うなよー」
「…ん 気をつける」
「じゃーなー」
それぞれの家に帰る。
…もういくつ寝ると春高?