第32章 あわ
ー研磨sideー
墨で顔に描かれるのは絶対やだ。
いや、シゲさんならいい。
穂波も。
あとの2人は絶対やだ。
だから絶対、クロと心さんには負けたくない。
今はその2人がコン、コンと音をさせながら羽根付きしてる。
さっき、穂波とシゲさんがやって穂波が負けた。
シゲさんは穂波のほっぺに斜め上に向かう線を一本引いた。
…多分、猫にしたいんだろうな。
いや猫じゃないかもしれないけど、何か、動物。
「くっそー 結構長いラリーだったことない!?」
クロは負けて、心さんはクロのおでこの真ん中に目を描いた。
「…ぷっ 笑」
「おら研磨、笑ったな!」
「…だって」
「よーし、じゃあ次、研磨くんとシゲさんねー!」
渋い着物を着て、襷掛けをしたシゲさんと向きあう。
…かっこいいな。
シゲさんなら酷いことはしないだろうけど… でも負けたくない。
遊びにしては粘った。 粘ったんだけども… 負けた。
シゲさんは、俺の鼻にちょんちょんと筆を乗せた。
次は穂波と心さん。
穂波の勝ち。
穂波はすでにあるほっぺの丸の内側に小さな丸を描いた。
クロとおれ。
おれの勝ち。だってクロ絶対、やばいの描くし。悪い目してたもん。
絶対負けたくなかった。鼻の下にくるんってした髭を描いた。
心さんとシゲさん。
シゲさんの勝ち。シゲさん、負けなし。一人だけ顔が綺麗。
心さんの目尻に小さな米印。
クロと穂波。
クロの勝ち。 …何描く気だろ。
どんとこい!と構える穂波の前で腕を組んで悩んでる。
「シゲさん、ずるいっすよ。
俺に続けと言わんばかりに、一筆目いれるんすから」
そう言ってシゲさんが描いた線に続いて猫の髭になるように、
2本ほっぺに線を引いた。
それから順繰りと一回ずつ当たるようにしていって、
最後、おれと穂波が当たる。
…羽織を脱いで、たすき掛けしててかわいいんだよな。
結局片側の髭が描いてあるだけだから、
鼻ももう片方の髭も完成させたい。
だから、勝たなきゃ。