第31章 ガーベラ
ー研磨sideー
前触れもなく穂波がずーずーと泣き出して。
久しぶりに見た、穂波の涙。
…こんな写真貰ったら、うん。おれだって相当嬉しい。
「あ、それで写真は… そのだね、敢えて違う写真にしたから」
「チャームも全くのお揃いにはしなかったから、2人で選んで決めてね」
「…ん。 ありがとう。 このキーホルダー、心さんが作ったの?」
「うん、結構そういうのすきなの。
そんな感じなら研磨くんも持てるかなぁって」
「…ん。 持つ」
穂波はなかなか涙が止まらないみたいで、
おれの隣で静かにひっくひっく言いながら心さんに渡されたタオルで涙を拭いてる
「じゃあ、私たちはストーブ前でまったりするから。
研磨くん、ごゆっくり♡」
「…ん」
ごゆっくり、の後に明らかに♡が付いてて、
それってどういう意味なんだろうって思う。
高校生の娘の家に泊まる彼氏にいう、♡付きのごゆっくりってなに。
…懐が深いというか、感覚が読めなくって 逆にちょっと怖い。
心さんは奔放だけど、多分やっちゃダメっていうラインがしっかりあって、
それを踏み越えると、ものすごく怖いんじゃないかなって想像したり。
2人は穂波の作ったケーキがワインに合いそうだから、って
2人でワインを選んでストーブ前に移動していった。
…ほんと、仲良いな
「…穂波、どっちがいい?」
『…研磨くんすき』
「…ん。 おれも」
『…お茶、飲む?』
「うん、飲む。これ、ゆっくり見よっか」
穂波がお茶を淹れに台所に向かう。
椅子に座ってフレームに手を伸ばす。
全体的に角がなくって、
表面にかけられたヤスリの感じも柔らかい。
でもふんわりしすぎてはない。
なんか穂波っぽいなって思う。
柔らかくて綺麗だけど、どっしり強い。かっこいい
…花見ても、風が吹いても、このフォトフレーム見ても
穂波っぽいって思って。
穂波がこの世界に散りばめられてるみたいだ。
『研磨くん、写真、どっちがいい?』
お茶のはいった湯飲みを机に置きながら穂波が言う。
「どっちもいいけど、こっち」